東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)16号 判決
事実及び理由
一 前掲請求原因のうち、原告を権利者とする登録実用新案の出願から審決の成立にいたる特許庁における手続の経緯、考案の要旨及び審決の理由に関する事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、右審決に原告主張の取消事由があるかどうかについて審究する。
本件考案の出願当時、公知の引用例に右審決の理由中の認定のような構造の鉄板用切鋏が示されていること、本件考案と引用例の鋏との間に、その構成上、右審決の理由中の認定のような一致点のほか、同認定のような相違点があることは弁論の全趣旨により明らかであり、本件考案の刃部に対向する平坦部が存在し、引用例のものに、これが存在しないこと、本件考案が刃部に平坦部を設ける構成により、樋状鈑の樋状部の前後の平坦部分を挾切することができるという効果を奏することは当事者間に争いがない。
しかしながら、本件考案の出願当時、通常の金属薄板用切鋏の刃部が平坦部のみであつたことは当事者間に争いがなく、このように平坦な刃部の鋏によつて平坦な金属薄板を挾切することができることは当業者に自明であつたものと推認するに難くないから、本件考案において、その刃部に凹凸部のほか、平坦部を存在させる構成とし、これにより樋状鈑の樋状部の前後の平坦部分を挾切することができるようにすることは、当業者の極めて容易に想到しうることであるといわざるをえない。
そして、本件考案の刃部において、対向凹凸部の数を板金の樋状部のピツチに合わせて選定することが当業者にとつて極めて容易にできる程度のことであり、また、対向凹凸部の形状を樋の形状に合せることが当業者に自明のことであることは、原告の認めて争わないところである。
してみると、本件考案が引用例のものと構成上、相違する点は、すべて当業者により極めて容易に採用することができたものであるから、結局、本件考案は引用例のものに基づき、当業者が極めて容易に推考しうるものであるというべきであつて、本件審決に原告主張の違法があるとは認めることができない。
三 よつて、本件審決にさような違法があることを理由に、その取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものとして、これを棄却する。
〔編註その一〕本件における請求原因は左のとおりである。
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は「特許庁が昭和四九年一〇月一四日同庁昭和四五年審判第一〇三三六号事件についてした審決は取り消す。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、被告ら訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。
請求の原因
原告訴訟代理人は本訴請求の原因として、次のとおり述べた。
(審決の成立にいたる特許庁における手続の経緯)
一 原告は名称を「樋状鈑切鋏」とする登録第八九五九三七号実用新案(昭和三八年八月七日意匠としての登録を出願したが、昭和四〇年一二月七日これを実用新案登録出願に変更し、昭和四五年三月一二日登録となる。別紙第一図面参照。以下、構造に関する符号は右図面の符号に対応する。)の権利者であるが、被告らは昭和四五年一一月一一日右考案につき実用新案登録無効の審判を請求し、特許庁はこれを同庁昭和四五年審判第一〇三三六号事件として審理のうえ、昭和四九年一〇月一四日「登録第八九五九三七号実用新案の登録は、これを無効とする。」旨、本訴請求の趣旨掲記の審決をし、その謄本は昭和五〇年一月二七日原告に送達された。
(考案の要旨)
二 右考案の要旨は次のとおりである。
一方の刃体1の刃部の適所に樋状鈑2の突条部3を緩く装入しうる凹陥刃4を設け、これと同じ位置の他方の刃体1′の刃部に凸刃5を設けてなる樋状鈑切鋏。
(審決の理由)
三 右審決は右考案の要旨を前項のとおり認定したうえ、次のような理由を示している。
登録第一四五七八五号意匠公報(昭和三四年七月七日発行。以下、「引用例」という。別紙第二図面参照。)には「一方の刃体の刃部は波形凹凸刃となり、他方の刃体の刃部は前記波形凹凸刃と凹凸対向した関係形状の同様の波形凹凸刃となつている鉄板用切鋏」が示されている。そして、本件考案は特殊形状の板金を切断するのに適した形状の刃部を有する鋏である点で引用例のものと一致し、その対向刃部が少なくとも単一の樋状部又は二つ以上の樋状部が一回の切断で切断されない程度に離れた樋状部をもつた板金を切断するように対向した樋の形状に適した形の対向凹凸部を有している点で、引用例のものの対向刃部が、いわゆるなまこ板と称する波形板を切断するのに適するように、その波形と同じ形状の複数の対向凹凸部を有しているのと相違する。しかし、鋏の対向刃部における対向凹凸部の数は、切断される板金の樋状部ないし波形のピツチによつて、おのずと決まるものであるから、これを板金の樋状部ないし波形のピツチに合わせて一対又は複数対に適宜選定するようなことは当業者が必要に応じて極めて容易にできる程度のことである。なお、樋には角樋も丸樋もあるが、本件考案においては樋の形状が角形に限定されていないので、対向凹凸部の形状をその樋の形状に合わせることは当業者に自明のことである。したがつて、本件考案は引用例に記載されたものに基づいて当業者が極めて容易に考えられるものであるから、実用新案法第三条第二項の規定に違反して登録されたものであつて、右登録は同法第三七条第一項第一号に該当し、無効である。
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
別紙
第一図面
<省略>
別紙
第二図面
<省略>